難聴は遺伝するの?片耳難聴者が基本からわかりやすく解説!

「難聴は遺伝するのか?」という疑問は、多くの親御さんや家族にとって非常にセンシティブなテーマです。

最新の医学情報・研究データ・実際の体験談をもとに、遺伝性難聴の仕組みとその対応方法を丁寧に解説します。

難聴の主な種類と特徴とは?
医学的に「難聴」は、主に以下の3つの種類に分類されます。
これらを正しく理解することは、適切な治療や支援の第一歩になります。
● 伝音性難聴
外耳や中耳に原因があり、音が鼓膜に届きにくくなるタイプです。
耳垢の詰まり、中耳炎、耳小骨の異常などが代表的な原因です。
治療や手術で改善が期待できるケースが多いのが特徴です。
● 感音性難聴
内耳や聴神経に異常があり、「音は届くけれど正しく感じ取れない」状態です。
先天性・進行性・遺伝性難聴のほとんどがこのタイプに含まれます。
日常会話が不明瞭になったり、特定の音域だけ聞こえづらくなることもあります。
● 混合性難聴
上記2つの要素が組み合わさったケースで、症状が複雑になることがあります。
補聴器や人工内耳による対応が必要となる場合もあります。

感音性=遺伝とは限りませんが、遺伝性=感音性であることが多いそうです。
遺伝性難聴とは?

「遺伝性難聴」とは、親から受け継いだ遺伝子の変化が原因で起こる難聴のことです。
「家系に難聴の人がいないから大丈夫」と思われるかもしれませんが、実際には、家族に症状が現れていなくても遺伝子を保有している(保因者)ケースは少なくありません。
たとえば、両親がそれぞれ保因者だった場合、子どもが25%の確率で発症する「常染色体劣性遺伝」のパターンもよく見られます。
これは、親には症状がなくても、子どもだけに現れる可能性があるということです。
つまり、家族や親戚に難聴がいなくても遺伝することは実際にあるの?
はい、十分にあり得ます。

ボクがこのパターンです。
祖父が難聴であり、両親が遺伝子を保有している(保因者)でした。
信州大学が行った10年にわたる大規模研究(新生児15万人対象)では、先天性難聴のうち約50%以上が遺伝性であると報告されています(信州大学医学部・遺伝子診療科、2019年)。
「遺伝なんて関係ないと思っていたのに…」というご家族でも、実際には遺伝子の影響を受けている場合が多いのです。
このような場合、検査によって初めて分かることがほとんどで、見た目や普段の健康状態からは判断できません。
難聴はどのように遺伝するのか?(遺伝形式の種類)
遺伝性難聴のパターンにはいくつかのタイプがあります。
以下に、それぞれの遺伝形式と特徴をまとめます。
常染色体劣性遺伝(最も多い)
両親ともに保因者で、子どもに両方の遺伝子が揃った場合に発症。
発症確率は25%。保因者である親には症状が出ないことが多いです。
常染色体優性遺伝
片親が遺伝子を持っているだけで、子どもが発症するタイプ。
家族内に発症者が多い場合、この形式の可能性が高まります。
X連鎖遺伝
性染色体に関係し、男子に症状が出やすい。女子は保因者として次世代に遺伝することがあります。
ミトコンドリア遺伝
母親からのみ遺伝する形式。比較的まれですが、内耳のエネルギー代謝に関連する障害が原因です。
これらの形式は、遺伝子検査で特定が可能であり、将来の発症リスクの予測や家族への説明にも役立ちます。
遺伝性難聴の発症確率と最新研究

先天性難聴の50〜60%が遺伝性
日本耳鼻咽喉科学会のデータや、複数の大学病院研究により裏付けられています。
1,000人の新生児のうち、約1〜2人が先天性難聴で、その半数以上が遺伝性と推定されています。
若年発症型の遺伝性難聴にも注意
生まれたときは正常でも、思春期〜30代に発症する「若年発症型感音性難聴」もあります。
このうち約30%が遺伝によるもので、家庭に難聴の歴史がなくても発症することがあります。
- GJB2:日本人に最も多く見られる。重度難聴
- SLC26A4:進行性難聴や甲状腺異常を伴う
- STRC:中等度難聴、左右差が出やすい
- TECTA/WFS1:常染色体優性形式に関連
難聴の遺伝子検査って何をするの?
- どこで検査する?
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医療機関での診察後、血液または唾液の検体を採取して検査します。
一部の施設では、郵送キットによる自宅検査も可能です。
- 費用と保険適用について
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- 原因不明の難聴や小児難聴と診断された場合、保険適用となる可能性があります。
- 費用の目安:保険適用時5,000〜20,000円、自由診療では30,000〜80,000円程度
- 検査でわかること
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- 難聴の原因遺伝子の特定
- 進行性かどうか、将来の影響予測
- 合併症(例:腎障害、視覚障害)との関連性
- 検査のタイミングはいつが良い?
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- 子どもに難聴があると診断されたとき
- 家族に同様の症状があるとき
- 結婚・出産前に遺伝リスクを知りたいとき
難聴が遺伝すると分かったときの対応と支援
● 次の子どもに遺伝する可能性
両親が保因者である「常染色体劣性遺伝」では、次の子も25%の確率で発症する可能性があります。
片親のみが保因者の場合は、基本的には発症しませんが、子どもが保因者になる可能性があります。
● 治療・支援機器の選択肢
- 補聴器
- 骨導補聴器
- 人工内耳(特に両耳の高度難聴に有効)
これらの選択肢は、遺伝子のタイプや聴力レベルによって使い分けることが望ましいとされています。
● 公的な支援制度
- 児童発達支援:早期の言語・行動支援
- 特別支援学校や通級指導
- 補装具費支援制度(補聴器・人工内耳の購入補助)
- 障害者手帳(聴覚障害):医療費控除、就労支援などに利用可能
心のケアと家族の向き合い方

親のせいじゃないと知ることが大切
遺伝性と聞くと、「自分のせいでは?」と自責の念を抱く親御さんが少なくありません。
しかし、遺伝子の変異は自然に起こるものであり、誰にも責任はありません。
よくある質問(Q&A)

- Q:兄弟も難聴になりますか?
-
はい、遺伝形式によっては兄弟も発症する可能性があります。
常染色体劣性遺伝の場合、兄弟が同じ遺伝子を受け継ぎ、難聴を発症する確率は**25%**とされています。
家族全体でのリスク評価のためにも、遺伝カウンセリングの受診が強く推奨されます。
- Q:子どもにどう伝えたらいい?
-
「耳の聞こえ方にはいろいろな個性があるんだよ」といった、肯定的で年齢に合わせた説明が大切です。
自分を否定せずに受け止められるよう、安心感のある言葉選びと一貫したサポートが重要になります。
- Q:検査で異常が出たら、必ず発症しますか?
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いいえ、保因者であっても発症しないケースは多くあります。
遺伝子に変異があっても、実際に症状が出るかどうかは個人差があり、医師の判断とカウンセリングが不可欠です。
正しく理解することで、過度な不安を避けられます。
- Q:遺伝性難聴に効果的な治療はありますか?
-
あります。
補聴器や人工内耳などの選択肢により、聴力を補完することが可能です。
また、早期発見により、言語発達や教育支援もスムーズに進められます。
遺伝情報をもとに、より適切な治療計画を立てることができます。
専門家に相談するには?
検査や支援制度について相談したい場合は、以下のような機関が対応しています。
- 耳鼻咽喉科・頭頸部外科(大学病院など)
- 遺伝カウンセリング外来(総合病院)
- 自治体の子育て相談センター、保健所
まずは、かかりつけの耳鼻科で「遺伝カウンセリングを受けたい」と相談するのがスムーズです。
まとめ:正しく知れば、未来が変わる
難聴と遺伝は身近な問題です。
家族に症状がなくても、遺伝が関わることは珍しくありません。
でも、正しい知識と早めの検査、支援制度を知ることで、未来の選択肢は広がります。
治療法もあり、安心につながる方法はたくさんあります。
大切なのは、「知って、動くこと」。
それが、家族の不安を希望に変える第一歩になります。
参考文献・出典情報
- 厚生労働省「難聴児への支援に関する指針(令和3年度)」
- 日本耳鼻咽喉科学会「難聴の分類と診療ガイドライン(2023年度版)」
- 信州大学医学部・遺伝子診療科「新生児スクリーニングによる遺伝性難聴の実態調査(2009~2019)」
- 国立成育医療研究センター「小児難聴と遺伝子の関係について」
- 国立障害者リハビリテーションセンター「聴覚障害児への支援と補装具制度」
- 東京都福祉保健局「聴覚に障害のある方への支援制度と教育相談」
- 日本遺伝カウンセリング学会「遺伝性疾患に関するカウンセリングのあり方」
- 遺伝医学専門誌『Hereditas Clinica』第18巻「感音性難聴とGJB2変異の疫学的関連性」
- 小児科学雑誌 第127巻「SLC26A4変異と難聴進行性の関係」
- 臨床耳鼻咽喉科ジャーナル 第117号「若年発症型感音性難聴の遺伝的背景に関するレビュー」